一人の若い女が教会の神像の前に佇んでいた。
質素な服に身を包み、髪は短く肩ほど、透き通る銀髪に深い碧眼、
落ち着きのある取り澄ました風の美貌の女だ。
時が止まったかのように静かに一心に祈りを捧げている。
物静かだが、人々のためによく働き、
時間があれば毎日の祈りは欠かさない、真面目な修道女だった。
彼女のいるのはほどほどに裕福な普通の町だった。
時は乱世、世の中はあまりよくない常態にあり、
この町はまだ戦火に晒されたことはなかったが、
風の噂に物騒な話が聞えてくる。人々の心から不安は拭えなかった。
そして、ついにこの町も野盗に目をつけられてしまう…。
人々の悲鳴、強奪と殺戮が始まった。教会に怪我をした者たちが訪れた。
重傷で担がれてきた者たちが何人かいる。その者は今放置したら死んでしまいそうだった。
教会の者たちも逃げる準備をしている。しかし、彼らはそのうちの一人、サイアを呼び止めた。
「お願いだ!助けてくれ!あんたならできるだろ!?」
教会の者たちは内心舌打ちした。しかし、サイアはそこに進み出た。
「はい、私が癒します。他の方達は先に逃げてください。」
サイアは手に触れた者の傷を癒す魔法の力を持っているのだ。
普段からその力を頼る者は多かった。
彼女はこの場に残り、彼らを治癒した。他の者たちはやむなくそのまま逃げた。
そして、そうしているうちに教会に賊が侵入した。
彼らは息を潜め隠れていたが、間が悪く小物を落として小さな音を出してしまい、見つかってしまう。
「くっ…!」彼らは絶望に捕らわれた。リーダー格らしき者がサイアに目を留めた。
男はいかにも下品な悪党面だ。連れの手下も似たような面構えだが、
この男の目つきには特に油断ならない光があった。彼は名をシームと言った。
「修道女か。こりゃあ上等だな。」シームはにやりと残忍に笑んだ。
手下の者たちが治癒された怪我人たちを見て疑問の声を上げた。
「あれえ、そう言えばこいつらは…。
ギタギタに斬りつけてやったと思ったのに、どうしてその傷が癒えてやがるんだ?」
そして、野盗たちはその訳を知った。「面白いな。」彼らのサイアを見る目つきが変わった。
しかし、リーダー格の男、シームは不思議に思った。
この女の目はこんな事態にあるというのに、
動揺がなく凛としたものさえある。気に入らない、と彼は思った。
シームは自己中心的でずる賢く、残忍で悪趣味なことで知られる男だ。
シームを知る者たちは彼を恐れ忌嫌っていた。
シームは言った。「女、おまえの望みは何だ?」
サイアは恐れず口を開いた。「皆の安全です。」
シームは嘲笑った。「ふ、くっくっく。それはどうしようもねえな。
しかし、事次第ではおまえの望みを叶えてやらねえでもねえ。
おまえは俺たちと一緒に来るんだ。そして、俺の元で働け。
逆らえば町の連中を殺すぞ?盛大にな。」
その場にいた町人たちは動揺した。自分たちは人質になるのか。
彼女一人を犠牲にするのは町の者たちの罪となろう。
しかし、彼らには逆らう力はない。そして、サイアは男の用件を飲んだ。
「分かりました…。ただ、一つ願いがあります。
どうかこのことはこの場だけの秘密にしてください。」
自分が一人で背負えばいいと思ったのだ。
「フン、いいだろう。ただし、おまえが裏切れば、このことをばらして皆殺しだ。」
これは弄り甲斐があるとシームは思った。野盗たちは引き上げた。
その理由を街の者たちは知ることはなく、彼らはひとまずの安心を得た…。
町の者の間ではサイアは争いの中で死んだということになった。
そして、実際の彼女には地獄が待っていた。
「う…っ…!」サイアの肩から紅い血が流れた。
シームが離れた所に立ち、複数の短刀を手に持って弄んでいた。
サイアを木の前に立たせ、その一つを彼女目掛けて投げたのだ。
「こいつは自分で自分の傷を治せるからな。こういう遊びに使えるぜ。
サイア、命令だ。限界まで立っていろよ。おまえには役目があるんだからな?
腕のある奴、投擲の練習にどうだ?」「ははっ!頭、そりゃあいいぜ…!」「フッ。ただし、殺すなよ。」
奴隷かおもちゃのように扱われ、サイアはそれにひたすら耐えた…。
殴られ犯されることなども日常的だった。
意識のないところに乱暴に水をかけられて、サイアは目覚めた。
酷い暴行に曝され意識を失っていたらしい。
「ふう、危ねえ、危ねえ…。くたばったのかと思ったぜ。
さすがに一気にやりすぎると死ぬかもしれねえな。
今後はあいつらを一応見張っとくか。」
シームが不機嫌そうな目でサイアを見下ろしていた。
サイアが弱弱しく口を開いた。「聞きたい事があります…。」
それを怪訝そうな目で見つめ、少しの沈黙の後、シームはそれを許した。
「…言ってみろ。」人を食ったような目で彼女を見つめながら言った。
「あなた方は、何故このような生き方を選んだのですか?」
不満をぶつけるような言い方ではない。ただ、静かな目でひたと彼を見つめて言うのだった。
シームはそんな彼女の目に何か引っ掛かるものを感じるのだった。
「…ふん、単に現時点ではこれが波に乗った実入りのいい生き方だからさ。
俺は別に力が全てだと言い切るつもりはねえ。」
「私には分かりません。あなたもいつか弱き者になるかもしれないのに…。」
「弱き者?俺たちも弱き者だ。だから堕ちるしかない。そして、いつでもそういう連中は存在するもんだ。
最も、神などと言う虚像に縋るしかできぬ修道女には分かるはずもないだろうがな。
だが、それもいずれ終わる…。くくく…。」彼女を見る男の目には暗く深い憎しみの炎があるようだった…。
そして、彼女は罪人たちの傷を治す。腕効きの戦士が負傷して彼女の元に運ばれてきた。
ざっくりと一刀の元に深い傷が走っている。戦士は虫の息でガタガタと痙攣していた。
「バルだ…あいつが…!逃げなきゃやられちまうぜ…!」
こんなことができる者がいるとは…。サイアはその傷を見て驚いた。
バルという者、何者なのだろう。シームは珍しく苦い顔をしてイライラしていた。
サイアはそんな彼を思案してじっと見つめていた。
そのサイアの視線に気付くとシームは更にいらついた。
「おまえはさっさとこいつを癒せ!…分かってんるだろうな?
その目は何だ?おまえは俺の所有物で罪人なんだ。
おまえに俺を断罪する資格はない。おまえは俺と共に堕ちていくんだ…。」
彼は彼女の顎を掴んで自分の方を向け、据わった目で睨みつけた。
サイアは思った。自分は逆らっているつもりはなかった。
ただ普通にしているだけのつもりなのだ。それさえこの男は気にいらないらしい。
彼女はその日から伏目がちになった。
しかし、この危機は一時のことで、彼らはそれをやり過ごしたらしく、
彼女にとって嫌な日々は続いた。
出番のない時間は牢に入れられた。
ある日、その牢にもう一人の女が入れられた。境遇は似たようなものだ。
健康的で勝気そうな容貌をした女だったが、
その表情は今はただただ陰鬱なものだった。
女はミルダと言い、感情の起伏が激しいようで、いつも激しく泣いた。
そして、ミルダが傷つけば、サイアは彼女を癒してやった。
シームは何故かそれを咎めなかった。
「ありがとう…。楽になったよ。それにしても、あんたって無表情よね…。
まあ、こんな状況で心が凍っちゃってるのかもしれないけど。
悔しいとか耐えられないとか思わないの?」
「思いはします。けれども私は昔からいつもこうなのです…。」
それに、シームの責めを受けることは、
今の状況に甘んじている自分への罰でもあるのではないか、とサイアは思っていたのだ…。
「ミルダ、もしよければ何かストレスがあった時は私に…。
こんな状況でもここに2人。
傷を癒すこと話を聞くことくらいはできます。」
「あんた…!」ミルダは感極まってサイアに泣きついた。
そして、つらければ彼女に打ち明けるようになった。
「こんなのってないじゃないか!あたしが何をしたって言うんだい!
あの鬼畜ども!よりによってあの悪名高いシームに…!
こんな扱い、まるで人間じゃないよ…!」
「あたしは旦那の前であいつらに犯されたんだ!
逞しい人だったのに!あの人は四肢をぶった切られて!あいつら笑ってた!
子供は奪われた!幼い子供にはいろんな需要があるって、
あの子は売られた…!まだ二歳なんだよ!!
希望も何もありゃしないってのに何であたしは生きてるんだ!!ああああ!!」
サイアはそんなミルダに穏かに語った。
「ミルダ…。私はそれでも生きたいと思います。
生きていればいつかチャンスが巡ってくる日も来るかもしれない。
あの者の手から逃れる…。だからあなたもどうか希望を捨てないでください。」
そう、サイアは諦めてはいないのだ。
「サイアっ!!本気なのかい…!?でも…。」
「確かなことは分からないかもしれません…。
ですが、可能性が僅かなものであっても、ゼロではないと…。
信じて道を探る先に光は生ずるのではないかと、
最後の時までは、そう信じていたいのです。」
「ああ…!あたし、あんたがすごく好きになったんだよ…。
傍にいておくれ!こんな中でもあんたがいるからあたしは……!
いつかここから抜け出してまた笑って暮らせる日なんて来るかなあ…?
その時はあたしあんたと一緒にいたい…。照れくさいね。駄目かい?」
「いいえ、私も嬉しく思います。」サイアは微笑んだ。普段彼女はそれほどこういう表情を見せない。
ミルダを思いやる気持ちがあったのだろう。
蜘蛛の糸は未だ彼女らの前に垂れることはなかったが…。
機会を待ち見逃さぬように、生きている限り…。
そして、ある時からミルダは顔を酷く殴られるようになった。
その有り様はもう元の原型を留めてない有り様だった。
嫌がらせだ。ミルダの屈辱、精神的な打撃は相当だった。
サイアはそれを癒したが、彼女をひどく哀れに思った。
ミルダは朦朧としながら言った。
「あたし…こんなんじゃ外を歩けないね…。髪飾りも似合わないよね…。」
涙が静かに腫れた頬を伝った。サイアは優しくなだめるように言った。
「私が元に戻します。私の力はそのためのものですから。」
「ううう…。」ミルダは嗚咽をもらして泣いた。
ミルダは眠りの中で激しく魘されることもあった。
「やめて…!助けて…助けて…言うことを聞くから…。サイア…!」
サイアは目覚め、そんな彼女の額にそっと触れた。
すると不思議とミルダは落ち着いたように思えた…。
そして、そんなある日、サイアとミルダはシームの元に呼び出された。
男たちはそれを取り囲みニヤニヤと笑って眺めていた。
ミルダは目に見えて怯えていた。
そんな彼女を手下の一人がおもむろに羽交い絞めにして、
喉元に剣を突きつけた。「ひっ!た、助けて!!」
ミルダは怯え取り乱した。シームは笑ってサイアに言った。
「さて。今からおまえと仲睦まじいらしいこの阿婆擦れを始末しようと思うんだが。」
「は、離してー!!」ミルダは悲痛に叫んだ。
この男はこのために自分にミルダを近づけたのだとサイアは悟った。
「私が彼女の代わりに責めを受けます!」サイアは言ったが、シームはそんな台詞など予測していた。
「駄目だ。だが、特別チャンスをやる。サイア、おまえは俺と賭けをしろ。」
そして、一枚の銀貨を取り出した。
「これを俺が投げ手に取る。どちらの手で受けたかを当てるんだ。
もし、この話に乗らなければ即座にその女は地獄行き。
おまえが賭けに負けても地獄行きだ。助けたいなら勝ってみせろ。
と言っても俺は手は結構器用なんだがな。…さて、どうする?」
「サイア!!」サイアはしばらく言葉に詰まった。
シームはそれを嬉しそうに見つめ醜く笑った。
しばしの沈黙のうちサイアは言った。「…彼女を助けます。」
賭けに賭ける以外道はなし。シームは内心満足して狂喜していた。
「フッ。よし…いくぜ。」
シームはコインを宙に投げ、手を素早く複雑に動かし、それを受けた。
サイアはそれを集中して真剣に見つめていた。そして、しばらく沈黙の後、言った。
「答えられません。」「何…?」シームは驚いた。
「銀貨はどちらの手にも収まっていません。」図星だった…。
「くっ!てめえ……!!」シームの顔は歪んだ。
罠はあったにしろ、何故はっきり自分の思惑と仕草を見抜かれてしまったのだろうか。
「どうか彼女を解放してください。」
「馬鹿にしやがって!俺のせっかくの好意が受け取れねえのか。そいつを好きにしろっ!」
最初からこの男が約束を守るわけはなかった。
しかし、ミルダの心は満たされていた。
「サイア、ありがとう。あたし、もうどんな目にあったっていいよ。
あんたは精一杯助けてくれたんだからね…。」ミルダは最後に微笑んだ。
そして後日、ただ一人きりで牢内に佇むサイアの元にシームは何かを投げてよこした。
それは変わり果てたミルダの首だった。
サイアは一人になると、それを手に取りそっと触れた。
傷だらけの顔が美しさを取り戻す。だが、もうその命が戻ることはなかった。
しかし、そこにあった表情は安らかだった…。
それからシームの心は荒れていった。
彼は苛立って当り散らすようになった。
サイアに対するいびりも前にも増して酷くなっていった。
(何故だ!何故だ!何故だ!何度打ちのめしても砕けねえ!!この俺が…!!)
ある日襲った村で、はぐれた子供が拙い足取りで橋を渡って、逃げていた。
サイアはその子供の様子が気になって見つめていた。
シームはそれを見やり言った。「気になるか?」
そして、剣を握りその子の方へ向かった。
サイアは反射的にシームの手を取った。「くくっ、なら一緒に来い。」
そして、彼はその子供を乱暴に掴み締め上げた。「わあああん!」子供は泣き叫んだ。
「このような幼い子まで…やめてください!」そう言うサイアにを見て、シームはニヒルに言った。
「逆らうなと言ってあるんだがな…。じゃあ好きにしろ。おまえはもういい。」
そして、子供を底から宙に放り投げた!サイアは子供に駆け寄り手を伸ばした。
そして、シームはそんな彼女の胸を剣で一突きに刺し貫いた!
「あ……。」サイアは崩れ落ち、そのまま子供と共に河の中へと落ちていった。
そして、彼女の体は岸に流れ着いていた…。彼女の意識は戻らなかった。
しとしとと雨が降る。そこへどこからかぶつぶつと不気味な経文のようなもの呟く声が近づいてきた。
時折にそれに、シャン…と、錫杖の鈴の音が混じる。
一人の僧だ。その瞳は深い闇をたたえている。
「闇の者たちの声がざわめくのも然りか。
銀の髪の者…まさか現世で相間見えるとはな…。
覚醒は…まだしていないか―。」
サイアは夢うつつに暗闇の中にいるのを感じていた。
自分の周りを大小の黒い影が戯れるように漂う。
自分はその中を浮かんで漂っている。こちらを覗く複数の光る目が見える。
ただ顔ははっきりとは見えない。彼らはクスクスと笑っている。
彼らの囁きが聞える。
(サイア、サイア…銀の髪の子…。もっとこっちへおいで…。僕らと遊ぼうよ。)
(ヒヒヒ…絶望と欲望は一緒にあるぜ…。宝も糞も混ぜちまいな!ヒャハハハ!)
(ウフフフ…駄目ねえ、彼女はどうせあたしらの声など聞えないよ…。)
その中に一人の男が現れた。あの僧だ。
彼は何者なのだろうとサイアはぼんやりした意識の中で思った。
「我はダクレン。深遠に通ずる者…。
銀の髪の娘…。おまえは人にあらず。
世界の運命を握った支配者の生まれ変わりとして生を受けた変異種だ。
太古の昔…銀の髪、蒼き瞳の美しい男がいた。
彼は世界を支配してそこには秩序と平和をもたらしていた…。
何故か。彼には様々な力があったが、その中でもより大きかったのが、
意志を持つだけで、生命の心に触れることができ、
それを操り静める力を持っていたからだ。
おまえが何かを願うなら、それを祈り念じてみるがいい。
しかし、忘れるな。おまえはその力ゆえに人を弄ぶ罪人なのだ。
あの男は闇に狂わされて滅んだ。
そして、穴が穿たれた世界に、不完全で多様な心を持つ人間と言う種が生まれたのだ…。」
おかしな夢だと彼女は思った。そこで意識は完全に落ちていった。
一方シームの苛立ちは収まらなかった。
殺したはずの彼女のことが気になって仕方がなかった。
振り払おうとすれど、その気持ちは強くなっていくばかりだった。
そんなところへ、彼の元に一人の手下が来た。
しかし、その手下は何か異様な空気を発していた。目に生気がない。
その男は棒読みのような声で言った。
「シーム様…ダクレンが…お目通りを願っております…
銀の髪の女…サイアを預かっていると…。」
「何?」シームは怪訝そうに言った。
そして、思案ののち「連れてきてみろ。」と言った。
「いいえ…どうか私について…こちらに来てください…。」
「舐めるんじゃねえぞ?」シームは男の胸倉を掴んだが、彼は無反応だった。
「おまえ、どうした…?」まるで操られているようだ。
ダクレンと言うのは噂に聞いたことがあった。
手下たちに話すと何人かが彼の噂を口にして不気味がった。
闇に魅入られた気の触れた邪僧だ。
時折人を邪術で惑わしていると言われていたりする。
シームは嫌な予感がしながらも、手下を伴ってダクレンに近づくことにした。
得体の知れない危険な相手であったのだが…。
ダクレンはやはり何か禍禍しい威圧感を放つ不気味な男だった。
彼に抱えられたサイアに意識はないようだった。
しかし、傷は治っているようだ。
「これはおまえの落し物のようだ…。おまえはこの女が必要か…?」ダクレンは言った。
シームはその物言いに何か癇に障るものを感じたが、
鬱陶しげに口を開いた。
「フン、利用できるもんならいただいておきてえが、
手前に骨抜きにでもされてんのなら使いもんにはなんねえだろうな?」
「ふむ…何もしてはいないが…。必要なければ我が闇の供物としよう…。」
「待て!…いい。そいつをそこへ置いていけ。そして行っちまえ。」
「そうか…。では…。」ダクレンはサイアをその場に置き、
そこへ一陣の風が吹くと、それと共に消え去っていた…。
ダクレンは後呟いた。「さて、ああも甘い男であったのか…。
事は決まった…。闇の者どもが大量の血と不幸に肥えたあやつの魂を欲しておる…。」
そうして、サイアはシームの元へと戻ってしまった。
彼女はある砦に閉じ込められ、様子を見られることになった。
一人暗い壁の中で、彼女はあの夢で見た自分にまつわる話を思い出していた。
奇妙な夢だったが、あの話を信じてはいなかった。
しかし、サイアは毎日祈りを捧げるようになった。教会にいた頃のように。
この環境の中ではそれぐらいしか彼女にできることはなかったからだ。
そこに外から野盗たちの話し声が聞えてきた。
「最近、シームの頭は甘くなったぜ。そろそろ見切りどきかねえ。」
「バルの野郎がそれに乗じて勢いづいてるらしいじゃねえか。
あいつは気まぐれだが、頭のことは毛嫌いしてるからな。
機会があればこっちに矛先が向きそうだぜ。」
「つくづく気にいらねえ。善人気取りの馬車馬が。
俺たちの縄張りにちょっかい出しやがって。
あの野獣にぶち殺されるなんてまっぴらだぜ。
真っ二つになっちまう。寒気がすらあ。」
バルと言う名前。前にも聞いたことがある。
彼は善人なのだろうか。もしそうならあの男を打ち倒してほしい。
そして、自分を解放してくれたなら…。彼女は藁にも縋る思いで祈った。
「ぶえっくっしょん!」陽だまりで呑気に昼寝していたざんばら頭の大男がくしゃみで起きた。
何か脳裏にふと自分を呼ぶ声が聞えた気がする。気のせいだろうか。
そんなことをぼけーっと考える彼を
10をいくらか過ぎた感じの利発そうな少年が覗き込んでいた。
「おお…ユウトか。」「バルったら。またこんな場所で寝てたら風邪引くよ。」
「うーむ。まあ、心配するなよ。俺は鋼の体だからな。」
「まったく!それもいくらかは密かに僕が食料と情報を
調達してきてあげてるおかげじゃないの?」
「ああ、まあな。おまえはどこでも生きていけると思うぜ。
だからこれからもよろしく頼む。」「あのね…。」ユウトと呼ばれた少年は呆れた。
ユウトは彼の横に座り取り留めのない話をした。
「ねえ、バル、知ってる?シームの元に綺麗な銀髪の女の人がいるって話。
彼女は傷を治癒する魔法を使うことができるんだって。
でも、その人好きであいつの傍にいるんじゃなくて、
どこからの町から捕まえられて来たらしいって。
噂だけどさ、銀髪なんて珍しいから結構見たって人もいるみたいだよ。
その証拠に、あいつのところにいる酷い傷を負ったはずの戦士が
短時間のうちに回復してるのを見たって。
何か怪しい話だけど、本当なら可哀相だね…。」
「ふん…。ま、見てみないことには何とも言えんな。
そんな面白い女がいれば、俺が奴をぶち殺すついでに救出してもいい。」
「さっすが。頑張ってねー。僕は影で見守ってるよ。」
「はいはい、ガキは隠れてなさい。
しかし、あの野郎…。最近妙に甘いからな。今がチャンスだろうな。」
バルは不敵に笑んだ。彼の元には巨大な剛剣と鋼鉄の鎧が置かれていた。
サイアはある朝、外に喧騒の音を聞いて目覚めた。
野盗たちの怒号と悲鳴。外に何者かが迫っている。
そして、バタバタと慌しい足音が聞えてくる。
門は開かれ争いは砦の内側まで及んだようだ。
これは幸運か悪運か。分からなかったが、自分の運命が決まる日が来たのかもしれない。
そして、すぐ近い場で一人慌てる声、立て続けにその男の「があっ!」という悲鳴が聞え、
そいつが牢ごしの手前の簡易な扉もろともぶちやぶられ吹き飛ばされてきた。
「げほっ、げほっ!ぐうう…!」何者かに強い力で蹴り飛ばされたらしく、息を詰まらせている。
そこに軽快な足音と呑気そうな口笛が聞えてきた。
目の前に長身の大男が現れた。彼は目を見開き面白そうにサイアを見た。
「こりゃ驚いた。謎の銀髪の女ってやつか。よう、飯は食ってるか?」
サイアはあっけにとられていた。そして、彼は例の男だった。
サイアは彼に事情を話した。「私は守りたい人々がいました。彼らに罪はありません。
そのために癒し手としてあの男たちを助けていました。私は罪人です…。」
バルは反論した。「おまえの行為と奴らの行為はまた別のことだ。不可抗力だしな。」
「ですが、私が手を貸したことで新たな不幸を呼んでいるでしょう。
私はそれを償いたい。できることならば…。」
「俺がこんな辛気臭い籠ぶち壊しておまえを連れ出せば、それで終わりだ。」
「シームは狡猾で恐ろしい男です…。何が待っているのか…。」
サイアは自分らの行く末に懸念があったが、
しかし、彼女はずっとこんな時が訪れるのを待っていた。
「フン、ならば俺があいつを止める。と言うかちょうどぶっ殺してやろうと思って来たんだがな。」
バルはそう言い、不敵にニヤリと笑った。
バルを恐れたシームの仲間は彼をシームの元へ手引きした。
シームは追い詰められたが、バルに対して「俺はおまえのような馬鹿には負けねえ…。」
と、ジリジリしたものを感じながら虚勢を張った。
実際そう思っているのかもしれない。
「馬鹿はおまえだ。おれぐらい力があれば細かいルールぐらいぶち壊せるんだよ。
この距離で俺がいるんだぜ。お仲間たちも動揺して分裂してる。」バルはそんな彼を眺め皮肉を言った。
そして、「なんならこの女をぶち殺してやろうか?この女は死にたがってるからな。
こいつは確かに罪人だ。」とサイアの首に刃を当てた。
サイアはそんな彼を冷静に見つめ目を閉じた。
シームはそれを見て目に見えて狼狽した。
自分のこの感情は何なのだろう。彼のプライドはその理解に戸惑った。
その様子を見てバルは心中で苦笑い。
(はは、マジでそういうわけか…。俺が女ならこんな奴絶対ごめんだがな。)
そして、サイアに向かい大剣を思い切り振りかぶった。「うらああっ!!」
「やめろーっ!!」そこに思わずシームが飛び出した。
「…なーんてな。」バルはニッと笑うと剣を寸止めし、それを彼目掛けて豪速と豪圧の元に叩きおろした。
一瞬だった。悪名高い男はあっけなく散った…。
バルは最後に吐き捨てた。「おまえはこの女に負けたんだよ。」
サイアはシームの骸にただ一言そっと言った。「さようなら…。」
サイアはバルに言った。「私を殺さないのですか?」
バルは呆れた。そして真面目に語った。
「はあ、あんなのは嘘に決まっている。
罪を償いたいと思うなら生きろ。おまえの力を必要とする者がいるだろう。
その手でおまえにできることをするんだ。それが罪滅ぼしだ。
死ぬのはその後でいい。俺個人はそう思う。だから俺はおまえを生かす。」
「本当にありがとうございます。あなたは一生の恩人です。
この恩を少しでも返せるよう償ってまいりたいと思います…。」
サイアは深く頭をたれた。彼女は元いた町には戻らず、神に仕える身ではなくなった…。
サイアと関わるうちバルにもこの女のことはよく分からなかった。
彼は言う。「おまえは不思議な女だ。自分の痛みにはまるで鈍感に見えるのに、人を思いやる。
理想と責任に捕らわれた行動ばかりだ。
人のことには細かく言わない割にな。…俺にはおまえの心がよく分からんな。」
「申し訳ありません。いつもそう言われてしまいます。
普通にしているつもりなのですが…。」と彼女は返した。
「ああ…謝らんでいい。ただ、何かあればよけりゃ俺には言え。
たまには手伝ってやるぜ?病人どもに構うのはいいが、
そうもかかりっきりだと、いつか自分もぶっ倒れるぞ。
せっかくお綺麗な面してるんだ。たまには息を抜いて笑え。」とサイアの頭にポンと手を置いた。
そう言われてサイアは静かにそっと微笑んでみせた。
その笑顔は美しかったが、バルは特に感動は感じなかった。
それはどこか作られたもののようで、儚く遠いもののように思えた….。
後書きコメント
絶世の美女と言う設定なのに、踏んだり蹴ったりで、
絡む男どもも何故かゴリラばかりな我が心のヒロインサイアたん。
そして、ミルダは言葉もないほどもっと悲惨。シームは悪党と言うよりサド。
これでもかというくらいきっついものを書くのは快感。
この話は女性には確実にドン引きされる自信がある。
って言うか、ドン引きしてください。
恐らくそういうのが作者の趣味なのでしょう。w
バルは女気なしのキャラなので、サイアに興味があるわけではない。
これはあくまで醜い男と美しい女、シームとサイアの物語として書いた話だったりする。
順風満帆の美男美女の話なんてつまらない。
一見きっつい話だけど、その中に情緒を考えた。
種を自分なりにいじってみた二次創作。
元は同じ学校で親友だったキラとアスラン。
そして、卒業の日、彼らは違う道を歩むことになる。
「僕は地球に行くよ。育ての親がいる場所だから…。
それにいろいろ勉強してみたいことがあるんだ。広くて大きな国だからね…。」
そう言うキラの希望に光る清々しい眼を、彼の親友のアスランは笑顔で見つめた。
「それもいいかもな。きっとおまえならそこでいろんなものが見つけられるよ。」
「アスラン、君はやっぱり…。」「ああ、俺はプラントで父の仕事を支えることにするよ。」
そう言う彼の目は意志を感じさせた。しかし、どこか陰りがあるようにも見えた…。
「そう…責任感の強い君らしい選択だと思うよ。
でも、例え遠く離れても僕らの心は一緒だ。そう、思っていいよね。」
キラはにこやかにアスランに別れの握手を求めた。
「ああ、聞くまでもないだろ。」アスランは気さくに笑んでその手を取った。2人は別れた…。
そして…皮肉なことにその国同士で大きな戦争が始まり、2人はそれに巻き込まれていく…。
皮肉なことにガンダムのパイロットとして戦士の資質のある2人は
国の仲間を守るために戦場で対峙することになる、と。
アスランからそれを聞くクルーゼ。
アスランはキラは自分が仕留めると言う。
そんなアスランにクルーゼは言う。
「アスラン、生真面目なのが君のいいところだが、まずキラの説得を考えよう。
彼も元は我々と同じコーディネーターだ。
彼を仲間に引き入れることができれば、我々も心強いとは思わないか。」
「キラは苦しむでしょう…。」「それを癒すのが君の役目だよ。」
「……。分かりました。失礼します。」
「アスラン。」「はい。」
「死に急ぐなよ。君の命は君だけのものではない。分かるね?」
「はい…。」
一人になったクルーゼはつぶやいた。
「キラ・ヤマトか…。忌々しいコーディネーターめ。生かしてはおかぬ…。」
一方キラはフラガと話していた。
キラは深く傷ついているようで、言葉にも気力がない。
「そうか。辛いな…。すまない…。だが、辛いのは皆同じだ。
俺だって嫌になるさ。でも、仲間の命からは目を背けられない。
…悩むことはやめなくていい。答えを探し続けるといい。」
「…はい…。」と、キラはそれに頷いたものの、
彼のの表情は一層沈んでいくようだった…。
フラガは自分は残酷だと思った。けれども、この少年の力を借りなければ、
今のところ地球連合の主力となりうる戦力は乏しいのが現状だった…。
休日二人で会うアスランとラクス。
恋人同士の時間なのに二人は触れ合うこともなく、
ただ静かな時間が流れた…。ラクスがぽつりと言った。
「お疲れのようですね…。」「え…いや、すみません。」
「謝らないでください。ただ、いつもあなたは自分の心を押し殺して隠しているようで、
私は婚約者であるのに話相手にもなれないのかと…。」
「そんなことは…。僕から見てもあなたは魅力的な人だと思います。
ただ、あなたに聞かせられるような綺麗な言葉が見つからないのです。」
「……。戦争は仕方のないことだと思います。あなたは犠牲になっているだけです。」
アスランの表情が硬くなる。「…僕は自分でこの道を選んだだけです。
…名残惜しいですが、そろそろ失礼します。」
そそくさとその場を後にしようとする。
「私…!ごめんなさい!」「いえ、何もお気になさらず…。」
「アスラン、私、今度慰霊祭に皆の前で歌うのです!
私こんなことしかできませんけれど、心を込めて歌います!
聴きに来てくれますかっ?」
「…ええ、行かせていただきます。ありがとう…。」
アスランが軍人になったのは父を支えるため、仕方なく。
けれど、母の墓前で号泣する父を彼は裏切れなかったのかもしれない…。
ラクスはそんな彼の後姿を見て思った。
(私はあの方が嫌いではないのに、遠い…。
私たちの婚約で築かれたクライン家とザラ家の結び付き…。でも、何か怖い…。
お父様とザラ議長はまるで水と油のようだわ…。)
そして、キラとアスランは戦うことになった。
アスランを前にキラの攻撃は鈍った。
フラガが彼を叱る。「キラ!しっかりしろ!」
キラも夢中ではあるのだが…。
アスランは言った。「どうした、キラ?そんなものでは何も守れないぞ!」
「アスラン!やめてくれ!君とは戦いたくない!」
「ああ、俺だって止めたいさ。おまえが止めてくれるならな!」
「僕には守らなきゃいけないものがあるんだ!」「俺も同じさ。平行線だな…!」
火花が散った。アスランの攻撃がキラの機体を砕いた。
「うわあああああー!!!」フラガたちは目を見開いた。「キラっ!!」
そしてキラに言う。「キラ、冷静になれ!その機体から脱出するんだ!!」
「あ…あ…!!」キラは必死で抜け出した。
「さて。ガキにばっか頼ってられねえな。俺が精一杯お相手するぜ。」
そして、その戦いは終わり、
その場にいる全員がキラの姿を見失った。
彼は一体どこに消えてしまったのか…。
「宇宙のひずみ…?」「そうです、ラクス様。
宇宙にはそういうものがあって、そこに入ると思わぬ遠い場所へと飛ばされたりするそうです。」
「まあ、素敵ね。私も入ってみたいわ。くすくす…。」
優雅にお茶をしていたラクスだが、ふと争いのことが気になり、気を紛らわしに外に出る。
花園を歩いていた。(綺麗ね…。でも、今は皆誰も見てくれないのかしら…。)
そして、彼女は何かを見つける。「えっ…?」
少年が傷ついて倒れている。こんな争いのない場で。
「何故…!?た、大変…!助けなくては!」
そして、彼女は騒ぎにはせずに侍従を呼んだ。
「ラクス様!これこそ正に宇宙の…!」
キラは眠っていた。脳裏に美しい歌が響く。心地いい。
嫌なことは忘れて、ずっと浸っていたい…。
そして、彼は静かに目覚めた。目の前に広がるのは美しい風景だった。
広い庭の片隅にある小奇麗な離れの部屋に自分はいたようだ。
どこからかあの美しい歌声が流れてきた。
彼はその声のする方へと歩いて行った。
声の主は美しい少女だった。花を愛でている。
その横顔は聖女のようだ。キラはしばらく立ち尽くした。
そして、少女と目が合った。
「あら…?目が覚めましたか?よかった…!」
ラクスは心から微笑んだ。
「あなたはどなたですか…。僕は…。」二人は話した。
「戦争は残酷ですね…。私の婚約者もアスランと言うのです。」
「あなたはどうして僕を許すんですか…。」
「ごめんなさい…。私はあなたが何者であれ、放ってはおけなかった…。
これはどうか私たちだけの秘密に…。」
「無責任だ!僕が悪意のある人間だったら、どうするつもりだったんです!」
「ごめんなさい…。でも…いい方でした…。」
「僕は、僕は!もう戦いたくない…!」
それから、キラは落ち着いた。もう戦争の道具になるつもりはないと言った。
そして、宛てもなく旅立って行った…。
またラクスはアスランと過ごしていた。
ラクスが何かを大事そうに持っている。
それはキラが身に忍ばせていたものらしく、ラクスが受け取っていた。
壊れた鳥の形をしたおもちゃだ。驚くアスラン。
「ラクス…!それをどこで見つけました!?」
「あ…これは…いつのまにか…庭に落ちていて…。
アスラン、図工は得意でしょう?直してくれませんか?」
「僕にそのことについて、正直に詳しく話してくれませんか?」
話を聞いてアスランは顔をくしゃくしゃにした…。
「キラ…生きていたのか…。ラクス、本当にありがとう…。」
彼は心からラクスに感謝した。
空ろな目で雑踏を歩くキラ。遠くで悲鳴が上がった。
そして、小柄な少年が後ろを気にしながら駆けていく。
キラはそれと衝突して転んだ。同じく転んだ相手の少年は悪態をつく。
「いってえ…!ぼーっと歩いてんなよ!石頭!…っと、それどころじゃない!」
しかし、立ち上がろうとして眩暈でひっくり返る。
周りを男たちが囲んだ。「ちっ、おまえのせいで追いつかれたじゃないか。」
「てこずらせやがって、サルガキが。ん…この茶髪のガキも仲間か?」
状況を理解したキラは…。「僕はこの男の子の仲間じゃありませんけど?
でも、酷いじゃないですか。大の大人が数人かがりで幼い子供を。」
「あーん?関係ねえなら手前は黙ってろ!」男がキラに向かってナイフを振りかざした。
キラはそれを受け止め、神がかった動きで男たちを一網打尽にした。
そして、彼らは逃げていった。少年はぽかーんとしている。
そして、隠れた落ち着いた場所に行き自分のことを語り始めた。
少年に見えたが、彼女は少女で、名はカガリと言い、
ある町でレジスタンスのリーダーみたいなことをやっているらしい。
大戦争が原因で次々と様々な町が不安な状況に陥り、混乱が起きているのだ。
「やっぱ力のある奴は違うな。私にも力があったら…あんな奴らボッコボコだぜ!
むしゃむしゃ…ごっくん…ゲホゲホゲホ!!
はあ…ふう…。なあ、おまえ私に力を貸してくれないか?」
キラは冷たく彼女を見やった。
「君は女の子だろ。そんな乱暴な言葉使いはやめたら。
それが人にものを頼むような態度?」
「おまえに関係ないだろ!!…あ、いや、頼む!頼みます!この通り!!」
「嫌だ。君のやってることは人殺しだ。」
「人殺し?こんな世の中で甘ったれたことを言うな!
皆自分のことしか考えない。だから戦って生きるしかない。
それは人の権利だ。」
「だったら死んだ方がいい。それにそんなことをしても無駄だ。
ナチュラルはきっとコーディネーターに勝てない。」
「おまえ…まるで死んでるんだな…。私は諦めない。
強さを補う別の力を手に入れればいいんだ。
キラ・ヤマト…たった一人で地球連合を支えるガンダムのパイロット。
もっとマシな奴かと思ったけどな。」
そして、カガリは不意にキラの胸に飛び込んだ。
「なっ!?」かと思えば、さっと離れ、にやりと笑った。
「これは私が貰っていくぜ、腑抜け野郎!」
手にしているのはガンダムのパイロットの認識キーだ。
そして、少女はかけて行った。
「好きにすればいい。僕はもうガンダムには乗らない。
ガンダムはナチュラルには動かせない。」
カガリは15の時に父と縁を切り、家出した。
強い者に媚びて国を守ろうとするアスハ。
そんな父が地球連合の造ったガンダムを隠していたことがばれ、
彼と国は立場を失い、アスハはいずこかへ身を隠した。
その代わりに立ち上がったのが、この家出少女だ。
連合は懲りずにガンダムを製造したが、乗り手を探すのは難しかった。
カガリは単身でそこに忍び込んで、ガンダムに搭乗した。
無茶な搭乗者の出現に周りは慌てたが、試してみなけりゃ分からないと当人は思った。
なんとも不器用な形であったが、一応何とか乗っている。
そして、速攻猪突猛進。彼女はこれで敵に立ち向かおうとするが、足をすくわれる。
その様子が報道されるのを見たキラは驚き駆け出していく。
結局自分は戦いの中に生きるしかないのだろうか…。
キラがその場にたどり着いた時、カガリは破れ、敵の捕虜となっていた。
アスハはそれに苦しみ、キラに娘を助けてくれと頼み、
キラとカガリが事情による生き別れの姉弟であることを打ち明ける。
彼はこうなってついに自分の意志を示したのだ。
カガリはザフトの牢獄に。ザラがそれを見に来た。
後ろにはアスランがいた。冷めた瞳でカガリを見つめていた。
「フン、ナチュラルを騒がせているレジスタンスのリーダーがこんなガキとはな。
皆の前で処刑してやる。それまで腐った飯でも食っていろ。」
カガリは燃えるような目でザラを睨み付けていた。
「…生意気なサルだ。立場を弁えろよ。」
ザラはカガリの胸倉を掴んだ。カガリは彼に唾を吐いた。
「くっ…!明日にでもこいつを処刑しろ!!」
夜、誰かの足音がカガリの元に近づいてくる。アスランだった。
「おまえは…!」「しっ!もうレジスタンスはやめろ。そうすれば、こっそりお前を助けてやる。」
「おまえ…。おまえは何でザラに従ってるんだ?」「ザラが俺の父親だからだ。」
「!…フン、おまえもあの腑抜け野郎と一緒ってわけか。」
「あの腑抜け野郎?」「地球連合に味方するキラ・ヤマトさ。」アスランの表情が固まった。
そして、2人は話した。「おまえはキラのほんとの友達じゃないんだ!
大切なものを守らないで、それ以外に何が残るって言うんだよ!
こんなのおかしいよ…!」少女の瞳から涙が零れ落ちた。
後に残されたアスランは…。
「キラ…。俺はどうしたらおまえを救えるんだ…。
俺にできるせめてものこと…。」
そして、彼は気付いた。自分にできることが何なのか…。
そんな中クライン派の者たちは地球連合との和解という道を考えていて、ザラ派と意見を違えていた。
それを疎ましく思ったザラは、軍の力を強めて行き、
ついにクラインの非を問い、彼を投獄してしまう。
クラインに明日はなかった。自分が死ぬ日も近いと感じていた。
クラインは娘のラクスを逃がしていた。
ラクスは供の者と供に遠き地へ逃げて宛てもなくさ迷っていた。
どこかでキラのことを考えていた。そして、二人は再び出会った。
2人は驚いた…。そして、キラは彼女に言った。
「怯えないで。今度は僕があなたを助ける番だと思います。」
キラは密かに彼女を受け入れ匿った。
ラクスは彼の前で激しく泣いた。
「どうしてこんなことになってしまったの…!
争いなんて望んでないのに!それなのに、私は何もできないの…!
誰かが私を父を皆を助けてくれたなら…!」
「争いを望む人たちもいる。僕はそれを否定できない。
でも、争いがなくなればいいと望む人がいるんだ…。僕の他にも…。
ラクス、僕はあなたの力になりたい。そして、僕は僕の道を行く。
皆とは違う道を行く。あなたが望むなら、僕はあなたのお父さんを…。」
そう言って彼は彼女に手を差し出した。
「僕を信じるなら、どうかこの手を取って。」
ラクスはおずおずとそれに手を伸ばした。「キラ…!」「さあ、行きましょう。」
そして、彼はクラインを救出して、「新たな国」を創ると宣言した。
コーディネーターもナチュラルも関係ない争いのない国。
他国を攻めたりはしない。自分たちの考えを他者に押し付けない。
それでも、自己防衛の範囲で敵を退けるためになら戦う。そんな国だ。
キラは言った。「人は世界のために戦うことなんてできない。
けれど、大切な人を思う気持ちは皆同じだと思います。」
そこにはキラの友人たちとアスハの姿もあった。
クラインたちの声明に世界は揺れた。
戦いに疲れた人々の間にじわじわと変化が訪れて行った。
それにザラ議長は怒り心頭だった。
「おのれ、クライン!!くそ!くそっ!
屑め!皆屑ばかりだ!許さんぞ!!」
「議長、どういたします…。」
「殺せ!!私に従わぬ奴は皆殺すのだ!!忌々しいナチュラルどもを皆血祭りにあげろ!!」
そんな彼の元にアスランは現れた…。
「おお、アスラン…!おまえは父の傍にいてくれるな。
私と供にあり、私の敵を倒すのだ!」
アスランは静かに父に近づき、その胸を貫いた。
「ぐふっ!あ…ああ…!アスラン…貴様…!!」
「あなたの傍から人がいなくなる。その理由をあなたは考えるべきだ。」
傍にいる側近の兵士はあわてた。
「ご子息!あなたはなんということを…!!」
「黙るんだ。ザラ議長は戦争の失態の罪で死んだ。
これからは俺が軍を指揮する。
人に向けた刃は自分に返って来るものだ。
そうして全ては失われていく。
プラントはこのまま父と供に滅びるか?
この戦争を終わらせる!」
クルーゼはそんな皆の前から忽然と姿を消していた…。
「これは思わぬ展開だ。キラ・ヤマト…あの少年と馴れ合うか…?
いや、世界が変化したところで私はもはや救われない。
そして、人はやがて平和の大切さを忘れて行くものだ。
地獄に行くなら皆を連れてだ。滅びの紅い花が咲くのが見たいんだ…。」
彼は人の気配の全くないある閉じたラボにいた。
そこでずっと探し求めていたものを見つけた。
「ここにあるこの細菌兵器を世界にばら撒いてやる。
これは人の細胞をめちゃくちゃに破壊する。
醜悪な野心のために密かにこんなものまで作っているとは、
まったく我が父らしいことだ。それも今や私の手にある。くくく…。」
しかし。「なるほどね。そういうわけか。俺がそんなことはさせないぜ。」
声と共にその場に銃声が響き渡る。
「フ、フラガ…。貴様…!何故私の元に…!!」
「さあ?因縁って奴じゃない?俺だって考えなしじゃないのよ。
へえ、仮面を外すと男前じゃないか。
事情はともあれ、おまえも俺も命をかけて戦ったのさ。
その結果だ。文句は言いっこなしだ。せめて安らかに眠れ。
さてと、これはとりあえず焼却処分だな。やれやれ、俺の親父もなかなか酷い奴だぜ…。」
後書きコメント
SFは特に疎い分野で、ほとんどが荒筋書きのような表現になってしまい、
めっちゃご都合主義展開で、あちこち突っ込みどころ満載でこっ恥ずかしい内容。
戦う時にトリーまで持ってたのかよとか、カガリの行動めちゃくちゃだろとか、
新しい国を作るって言ったって手元にそれだけの力はあるんだろうなとか、まあその他いろいろと。
つーか私キャラとか設定の名前すらよく分かってません。(もう死ねよ。)
合わない方は回れ右がお勧め。
もうルサンチマンにすら縋りたいとは思わない。
自虐で笑いを取れるようになることが今の目標。
口汚い本音全開です。2の話とかも普通にしちゃってるし。w
よい子は真似しないように。
言いたいことを言ってしまってるけど、
私の言葉には何の力もありません。
ここにある文章を勝手に無断転載したりはしないでください。(まずいないとは思いますが。w)
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